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e no hito|えの人

湘南に暮らし芸術にかかわる​方々をご紹介します。

石川直也|Ishikawa naoya
彫刻家、
Gallery & Cafe Gigiオーナー

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江の島国際芸術祭の編集班インタビューを快く受けていただいた石川さん。2023年2月、Gallery & Cafe Gigiにて。

インタビュー:2023年2月21日火曜日  

Q1~Q3

 Q1:Gallery & Cafe Gigi(ギャラリー&カフェ ジジ)について教えて下さい。

 うちは江ノ島にあるアートギャラリー、そしてカフェを併設したお店になっています。約10年前にギャラリーから始まったお店で、そこから徐々にカフェも併設して今に至るという感じなんですけど、だいたいギャラリーとしては1ヶ月おきにいろんな企画展を開催してまして、今生きている若手の作家がメインになるんですけど、なぜ今そのアート作品を作るのかっていうのを、必要性とかも考えながら、作家を選んで毎月展示をしてます。

 店舗は島の中なんですよね。島の中っていうと、意外とみんな江ノ島自体が島なんだってところから驚かれる方も多いんですけど、ちゃんと陸から離れた島にありまして、10分くらい、江ノ島大橋っていう大きな橋を渡ってから江ノ島神社に向かう山道の途中に岩本楼さんっていう旅館がありまして、そこの向かいを見ていただくと、小さく、うちのジジってGIGIっていう看板が出てるので、その小道に入っていただくとあるっていう。ちょっと隠れ家的なギャラリーになってます。この建物自体は、それこそ今出た岩本楼さんの使ってた古い蔵だと言われてまして、その蔵を改装したスペースになってます。

 ジジっていうのはうちで飼ってる黒猫、白黒の猫(ココ)がいて。すごい安易なんですけど、黒猫だからジジっていう風に、何も迷いなく呼んでて。で、お店を立ち上げる時にその黒猫がいなくなっちゃったんですよ。それで家族と話して、お店に名前にジジって名前つけてあげようよっていうことで、ジジって名前つけたんですよ。そしたら、今いる2代目の子猫のジジがお店に現れたんですよ。で、今も生きてます。それで猫がいいものを見つけてくるみたいな感じで、僕もいい作家、見つけてこようっていう思いで、江の島っていう場所にいい作家をどんどん呼んで。江の島って観光地で本当にたくさんいろんな方が来てくれるんで、そういう人に不意にいい作品を見せちゃおうっていう。そういう空間作りのために、手前にこういうアートのスペースを設けて、奥に行くと、カフェでお茶しながらもう一回ちょっとゆっくり作品を見れるっていうような。カフェ付きギャラリーっていうと、カフェの中に絵を飾るっていうようなイメージは多いと思うんですけど、手前にちゃんとアートを見る空間を設けるっていうのが、やっぱりこだわりのところですね。

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Gallery の奥にあるcafeにて。

Q2:Gigiを取り巻く江の島の環境についてどのように感じていらっしゃいますか?

 

 まず、江の島っていうのが観光地として知られていて、やっぱり観光地としては、お店自体は本当にみんな頑張って、いろんな協力し合っていいお店がいっぱいあるんですけど、うちはその中でアートギャラリーっていうのは珍しくて、まだまだ新参者なんですけど。最初はですね。観光地だからお土産感覚でもう少しアート作品を買ってもらえたらいいな。ちょっと軽い気持ちで最初は始めたんですけど、徐々にやっていくうちに、この環境で見せる意味ってなんだろう?っていうのをもうちょっと考えるようになって、そう考えると皆さん美術館とかはよく行かれると思うんですけど、そういう時って「よし、見に行くぞっ」て言って、何かを得るぞっていう気持ちで美術館に行って学ぼうみたいな気持ちで行くと思うんですけど。

 江の島に来る道中って結構長くって、駅から歩いてくると10分くらいの長い橋を渡ってくるんですけど、その間にやっぱり富士山もあるし、すごい色んな山々、遠くに見えて、そして広大な海も見てそれを15分くらいそういうのを眺めながら江の島に到着するわけなんです。

そうすると、やっぱりみんな自然な気持ちで山綺麗だな。海が綺麗だなっていうような、そんな気持ちで江の島に来てくれるわけです。すると自然と草木を見る山々を見るっていう。そういう気持ちで不意にこういう絵画とか彫刻とかっていうものに出会った時って、多分、そういう美術館で見る絵と感覚が違うんじゃないかなって思うようになって、それはいい場所だなって思ったんですよ。うちの利点というか、江の島ならではの見せ方ができるんじゃないかっていうふうに思ったので、それでもっと、徐々にそういう最初のお土産感覚っていうのよりは、もっといい作品を見せちゃおう、見せちゃえばいいんだっていうふうな感覚に変わって、

見せる作品もどんどん良くしていこうっていう気持ちでやるようになっていって。

 

 昔と今とでは何が違ってきたかっていうところは、なんかそれも良くも悪くも変わらないんですよね。いつ来ても「ああ江の島だ」っていう安心感っていうか変わらない江の島の良さもあるのかな。10年前ぐらいから始め、いろいろありましたからね、この10年。だから江の島自体がもちろん震災とかコロナでいろいろあったのにもかかわらず、みんな来てくれてるっていうのが逆にすごいことで、それだけやっぱり観光地としても活力があって、アクセスの良さもあるし、何なんでしょうね。不思議と人が集まってくるのはあるんですよね。僕の中では、作品を見る目っていうのが変わっててほしいなと思ってるんですけど、その辺はちょっと僕も今まだわからなくて。

 

 僕の中でのちょっと個人的な話になっちゃうんですけど、どういう作品を扱おうかなって考えたときに彫刻って。今は置いてあるものが人体の彫刻ですけど、人とか動物とかが当たり前のテーマとしてあったんですけど、僕が無作為に集めてきた、呼んだ作家っていうのを10年、見返してみたんです、去年。したら、思いのほか「物」を作るっていう作家が多かったんですよ。例えば物っていうのは僕らは「静物」って言って、静かな物って呼んでるような。

コップとか、本とか瓶とか日常にありふれたものをもう一度作品にするっていう作家が多いなっていうのを改めて気づいて、それを無理やり社会の動向と繋げれるのかは僕はあんまり言葉にする自信ないんですけど、日常に思いをもう一度馳せるっていうか、そういう作品が実は増えてて、大胆なダイナミックな作品じゃなくて、ちょっと静かで、そこにあるのが自然、当たり前なものに。我々も興味というか意識が向いてるっていうのは作家もそうだし、江の島に来る人ってやっぱ、どっちかというと例えば普段そんな作品を見ない方が多い。アート作品を見ない方が多いんだけども、そういったコップの彫刻とか本の彫刻っていうのを見ると、自然と家のことを思い出すというか、自分の日常に思いをもう一度馳せてくれるっていうのがあって、手に取ってくれたりするんですよね。だからそういう変化って言っていいか分からないですけど、そういう身近なものにもしかしたら、僕らはもう一度意識してることなのかなって思ったりして、でも、江の島自体は変わらずいい場所っていうのと、そういう安心感が重なっているのかもしれないですね。

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取材日に展示されていた高畑一彰さんの作品

Q3:アートは社会に必要ですか?それはどうしてでしょうか?

 まずはアートが必要かという質問の答えとしては必要と言いたいです。僕は作り手でもあり、ギャラリストでもあるので、作家としては自分が知りたい、探求していきたいとか、言葉では言えないような何かに到達したいという思いで、それがアートという表現によって形作られて繰り返し続けていくことで作家というものが成り立っていて、自分として人間としても成立していくので、作り手としては当然アートは必要です。それを逆に受け取る側ってどうなんだろうと思うと、やっぱり家電のような冷蔵庫のような必需品の必要とはちょっと違うかなとは思うんですけど。作品を見るものなので何かに使うわけじゃないんですよね。だからそういう意味の必要とは少し違うんですけど、作品を見ることでやっぱり何か気づきがあったり、思考が生まれたり、見ることで純粋なことで言えば、感動して何か前向きな気持ちになったり、考えるきっかけになるということも絶対にあると思っています。

 

 それで実体験として僕は最近「自立しない人」っていう彫刻作品を作ったんです。「自立しない人」っていうのは、その名の通り彫刻が立たないんですね。立つことができなくて、例えばこういう壁にもたれかかるということで初めて立つことができる彫刻なんです。それ自体は僕は作家としての目線でいうと、自分の探求でしかなかったんですね。彫刻とは何かとかいい彫刻を単純に作りたいとか、そういう思いで考えている中で生まれたものだったんですけど、いざそれを展示していろんな人に見てもらったときに、見てくれた人がじゃあ自立ってなんだろうとか、私って自立しているのと、かいろんな思いを巡らせてくれて、それが僕とのコミュニケーションにもなって。いろんな人とも「えっ、じゃー自立って何?」っていうすごいコミュニケーションが始まったんですよ。それがあったのが僕としては大きくて、今まで結構独りよがりな作品作りっていうものだったのが、作品によってはそういう人との繋がりに変わることもあるんだなと思って。それは本当に経験として初めて独りよがりなものが他者との繋がりに変わったという経験があって、こういうギャラリー空間に来たときに、もしかしたらそういうこれなんだ?みたいな。少しでも思ってもらえたら僕とお話しして(僕常にここにいるので、)これ何ですか?って聞いてもらえたらいろんなコミュニケーションが始まる。

 

 もしかしたら、何か必要って思うものになるかもしれないし、芸術祭がわざわざ芸術という言葉を使ってフェスティバルをするということについてですが、私もしょっちゅう壁に当たっていかないといけないことが多くて、やっぱり作品ってわかることをみんな大前提としちゃってるんですよ。それこそやっぱり勉強脳になっていて、やっぱりわかるっていうことを求めてしまう。作品の正解を求めてしまうんですけど、でも人って多分、海を見るときにわかろうとなんてしないじゃないですか。山を見るときにも何かをわかろうなんてしなくて、純粋に花を見たらきれいって人間って本当は思えるはずなんですけど、アートって言っちゃうと急に頭が固くなってしまって見方や認識を変えてしまうというか、見方を変えてしまうっていうのは絶対に誰しもある。僕もあるし、絶対あることなんですけど、もしかしたら江の島っていうこの場所で、ちょっとそういう普段とは違う場所で見るっていうのが、もしかしたらそれを変えてくれる可能性があるかもしれないですよね。わからなくても面白いって思ってもらえたら一番いいですし、わからないことすら面白いって思ってくれたら一番いいですよね。そのようなことができたら素敵だなとは思います。

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開催中の竹野優美さんの個展「遠いまなざし」より

「遠いまなざし」の開催期間/2023年4月1日(土)-4月29日(土)

Gallery & Cafe Gigi/月曜、火曜、水曜定休/11:30〜18:00

〒251-0036 神奈川県藤沢市江ノ島1-4-11

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石井直也

彫刻家、Gallery & Cafe Gigiオーナー

2012年東京藝術大学大学院 美術研究科修士課程 彫刻専攻修了 東京都出身

2022年  個展 「自立しない人」 (Gallery Pictor)神奈川 

2022年  個展 「LINE」 (RISE GALLERY)東京  他グループ展等多数

「彫刻とは何か」という問いに対して、大理石という素材と向き合い、「曖昧な境界」を探る行為として、立つことのできない人体彫刻「自立しない人」や、人の認識や思考に問いかける「LINE」シリーズなどのアプローチを続ける。

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